もうGood Morning

好きな映画、音楽について

ハッシュタグひとつで新しい扉が開いていったときのふりかえり

映画を観て感想をTwitterに投げるのは、手紙を詰めたビンを海に流しているような感覚だった。基本どこにも行き着かないけど、誰かが拾ってくれたらうれしいなぁという感じ*1

 

でも、神戸・元町のカフェで集まって今月のお題の劇場公開映画作品について語らう会: マンスリーシネマトークというイベント (主催の団体は cinemactif さん)に4月から参加するようになって、テーマの映画に対するいろいろな方の感想を直に聞くことで、より楽しくヴァイブを共有する体験を重ねることができた。4月〜9月の6回連続で参加したので振り返る。

 

【4月】

4月22日 (Sat)に「T2トレインスポッティング」をレイトショーで観た。とても面白くて、翌朝Twitterを見ていろいろな人の感想をチェックしていた。そんな中、ハッシュタグ「#T2トレインスポッティング」でこのツイートを見つけた。

 

 

イラストから、お手柔らかそうな雰囲気の会だから面白そうだな、という印象が伝わってきた。神戸までは自宅の最寄り駅から電車で30分程度で行けるので、足を運んでみようと思い立った。これが、マンスリーシネマトークとの出会い。

 

参加してみたところ和気藹々とした感じで、はじめてで緊張したけど面白かった。作品を支持する/支持しないを決めたうえで感想を語っていくということで、僕は「支持する」を選んだ。そのとき喋ったのは確かこんな内容だった:

 


政治集会のようなところにレントンとサイモンが侵入し、財布を盗んで逃走しようとしたところ否応なしにステージに上げさせられてしまうシーンが好きだ。サイモンがピアノを(弾けないんだけどテキトーなフレーズを繰り返すことで場を繋ぐように)弾き、レントンが思いつきの歌を載せることで場が一体になって盛り上がっていく。そして高揚感が最高潮に達したところで「Lust for Life (The Prodigy Remix)」が流れ、レントンとサイモンはダーーーッ!!と逃走する。

 

このシーンは、人前で即興で一曲披露して場を切り抜けるだけの度胸と才覚を身に着けた2人が、結局やんちゃなコソ泥らしく疾駆していくということで、「悪ガキらしさを保ったままタフになって帰って来た」感じがすごくいいなぁと思った。

 

ちなみにそれは、そこで流れたLust For Lifeのリミックスを手掛けたアーティスト、The Prodigyの活動の歩みと重なるところがある。彼らも1997年のアルバム ("The Fat of The Land")が大ヒットした後、メンバー全員がガッツリ取り組んだアルバム ("Invaders Must Die")が放たれる2009年まで12年の歳月があった。前線復帰作となったその2009年のアルバムには、まさしく「ワルそうな魅力はそのままに、剛くしなやかでビッグになって帰ってきた」感があった。だから彼らがLust for Lifeのリミックス版を手掛けるのは超納得。すばらしい人選だと思う。

 

初参加で緊張するのが目に見えてたので「このシーンいいよね」と語れるポイントを整理してから行こうということで上記のネタを仕込んで臨んだ。実際はもっと気軽に、その場で作品を思い返しながら喋っていく感じでOKだった。楽しかったので次回も参加することにした。

 
【5月】

お題は「メッセージ」。原作の小説「あなたの人生の物語」を読んでから観た人 or 映画からダイレクトに入った人 それぞれの感想を聞くことができた。僕は読んでから行った。この映画は圧倒的にすばらしい作品なのは間違いないんだけど、
・ヘプタポッドは、この先に何が起こるかを自明のものとしていること
・ヘプタポッドは、円環状の文字を使うこと
の関連性が映画からは読み取りにくくて、2次元的な表記法とは無関係な超能力みたいに未来が見通せる印象を与えかねないのは勿体ない気がした。そんな話をしたら、そこにどういう関連があるのかを僕なりに説明するということになった笑


2次元的な描画表現が時系列的逐次処理の概念を突破できるっていうのは、日本のマンガを例に出せばイメージしやすい。たとえば、登場人物が声に出して喋ってること (吹き出し)と心の中で思ってること (もくもくした吹き出し)を同時にひとつの画面 (紙面)に出せる強さがマンガにはある。活字や音読だったら、セリフと思惑のどちらかを先に処理して後から残りを伝達する形になるけど、絵なら両方同時にパッと出せる。

 

同様に、何人もの人が同時に誰か (聖徳太子みたいな誰か)に話しかけているシーンがあるとして、全員分のセリフを同時に画面に出すことができる。一人ひとりのセリフを逐一伝達していくのではなく「最終的にどうなるかが最初から分かる」伝え方ができる。ヘプタポッドの文字には書き順がなく、最終的にどうなっているかが最初から判っていなければ作り出せない。彼らはそれができるパラダイムで生きているから、あの円環文字が使える………と僕は解釈している。

 


【6〜9月】

それから9月まで毎月参加し続けた。5月の会の後、僕がスター・ウォーズ大好き野郎だということでcinemactifメンバーだったAyumiさんからお誘いがあり、元町映画館でのトークイベントに登壇させていただく運びとなった!

 

僕がイワキです。

 

 

 

これはAyumiさんだけでなく、#twcnポッドキャストのタキさんとも一緒に壇上で喋るという大変光栄な機会になった。

twcn.pw

好きなコンテンツについて魅力を発信するためのプレゼンの場に立てるという、貴重な舞台を踏めた。ご来場くださった方々、会場・元町映画館さんに改めて御礼申し上げます。

 

8月頃になると、マンスリーシネマトークの会場であるカフェ: ガトー・ファヴォリさんには何度も足を運んでいることから注文する飲み物が自分の中で固定化されてきた。いつも「季節のブレンド、フレンチ・プレス、ホットで」と言うことにしている (これはコーヒー)。店員さんが「メニューをお持ちしますね」と言い終わったくらいのタイミングで「季節のブレンド、フレンチ・プレス、ホットで」とメニューも見ずに唱えるようになっていた。

 

参加人数は会によって10人弱〜18人程度で変動するけど、行く度に新しい発見があり、ある点と思いもよらない別の点が繋がっていくような、それでいてふわりとした柔和な雰囲気の場になってるので楽しい。自分が作品と向き合った体験を、他の方の鑑賞体験を聞くことで見つめ直すことになる。

 

 

(ここから、映画の見方そのものに対する超個人的な印象論に入る)

 

 

「作品と向き合う」過程って、映画を観る行為を単純化して「作り手」「作品」「受け手 (=自分)」の3要素で捉えると、

1. 作り手と受け手の間には歩幅にして2歩ぶんの距離がある
2. 作り手は一歩前に踏み出し、地面に作品という旗を突き立てる

みたいなプロセスをまず思い描くんだよね。旗ってこんな感じ↓↓

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 そしたら受け手としては、上記の1&2が行われる様子を眺めてるだけでも面白いし、暇つぶしにもなるんだろうけど、自分からも前に一歩踏み出して、その旗に手が触れるように掴みかかるのが「向き合う」ために必要なことだと思ってる*2。この受け手側が手を伸ばすような能動的なアクションっていうのは決して大それたことじゃなくて、「好きな俳優が出てるからその役のシーンは見逃さないようにする」とか「予告編のあの場面が面白そうだからどこで使われるか楽しみに待ち構えとく」とか「〇〇さんが▲▲っぽいって言ってたけどマジなのか確かめに行く」とか、要はその人なりの楽しみ方のことだと捉えてる。場合によってはそれが、ディテールを読み解いて作品自体のテーマとの連関を見出そうとするようなするような作業になったりする。それはすごく楽しい。

 

そしてマンスリーシネマトークに参加するとね、自分の手がその旗に触れた瞬間の感触みたいなものがよりクッキリしてきたり、あるいは気づいていなかった暖かさ・冷たさ・湿り気・ささくれを後から発見できたりする。ある作品をテーマとして共有しながら自分以外の方の感想を肉声で聴くというイベントは、そういう効果をもたらしてくれると思う。テーマの映画に纏わる思い出として自分の中で暖かく膨らんでいく。

 

参加されてる方とは、立誠プロムパーティに一緒に行ったり、講談師: 神田松之丞さんが高座に上がるイベントで偶然出くわしたりして、マンスリーシネマトーク以外でも交流するようになった。要は、普通に生活する上で楽しいことが増えていった。そのきっかけは元をたどれば「#T2トレインスポッティング」のハッシュタグだった。

 

冒頭で「手紙を詰めたビンを海に流して~」って書いてたけど、直に伝えられる場に出会えてよかった。改めて、マンスリーシネマトークというイベントに、そして会を実施・運営されているcinemactifさんに心より感謝申し上げます。

 

そういうわけで、関西で生活するようになって来年で10年になるんだけど今年になって神戸という土地が本当に思い出深い場所になった。

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 さて、cinemactifには東京支部があり、東京でもマンスリーシネマトーク (その名もMCTT: MONTHLY CINEMA TALK TOKYO!!)が2017年11月から開催されている。是非チェックを。

 

2018年も、ビンを流していた浜から漕ぎ出たFriend Shipで、実り多き出会いがありますように。

*1:この比喩の元ネタは、音楽ライター: 田中宗一郎さんと柴那典さんの対談記事にある。リンク先で3分の2くらい読み進めたところの「批評は投瓶通信だから。要するに……」のところにインスパイアされた。 

silly.amebahypes.com

*2:「自分と相手の間には2歩ぶんの距離があって、受け取る側が一歩前に踏み出すことで作品が意味を持つ」というのは、BUMP OF CHICKEN藤原基央さんが2004年のアルバム「ユグドラシル」発売期にインタビューで語っていたことの引用。「旗」というモチーフは藤原さんの言葉にはなくて、BUMP OF CHICKENの楽曲「メロディーフラッグ」に僕がインスパイアされているだけの気がする。

ベストアルバム2017

今年よく聴いた音楽について。良かったと思うアルバムを9枚選んだ。順位もつけた。

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一枚ずつ紹介・レビューを書くにあたり、メジャーでないアーティストも挙げていると思うので各盤について【どんなアーティスト?】【どんな経緯でこのアルバムを知ったか】【ひとことコメント】は入れるようにした。アルバムと出会った経緯については「新しい音楽とどう出会っていったか?」という事例を振り返る意味でも残しておきたい。ちなみに去年のベスト。

 

itsalreadymorning.hatenablog.com

 

それでは、9位から順にあげていくよ


9. The Horrors「V」

 

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イギリスのインディー・ロックバンド。2007年にアルバムデビュー。本作が5枚目のアルバム。もともと2011年リリースの3rd「SKYING」はすごく気に入っていた。
今作はBOOM BOOM SATELLITESの中野さんがオススメしてはったのでチェックした。

 

アークティック・モンキーズ登場以降の2007年デビュー、つまりクラクソンズとほぼ同期のバンドで、活動休止や解散を1度もせずにアルバム1枚ごとに着実に前進してるのってホラーズ以外にはフォールズほか数えるくらいしかいないんじゃないだろうか。00年代後半のUKロックシーンをリアルタイムの洋楽の原体験としてきた自分には、あの頃にデビューしていたアーティストをこれからも追っていたい願望がある。ホラーズは残された希望だ。轟音ギターノイズと横ノリのダンス・ビートが組み合わさわり、上昇体験ではなく暗闇で腰を落として揺れ続けるようなトリップ感をもたらしてくれる。

 

ラストの「Something to Remember Me By」は大名曲。ニュー・オーダーからバトンを引き継ぎながら、ここから更に大物になっていくような勢いを感じさせる。

 

 8. Nothing But Thieves「Broken Machine」

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2015年にアルバム・デビューしたイギリスのロック・バンド。本作が2枚目のアルバム。サマソニに2015・2016の2年連続で出場していることもあり、名前はすっかり自分の中で浸透していたので気になっていた。今回の2ndアルバムリリースを機に改めて聴いてみた。

 

ダンサブルなポップスが全盛の今では珍しい、直線的なギターロックを堂々と演っている。パンクやガレージロックよりも重厚で、ヘヴイーロックよりも軽快……という絶妙なスピード感と重さがあり、「Nicheシンドローム」期のONE OK ROCKや「Liberation Transmission」「Betrayed」頃のロストプロフェッツに通じる稀有なバランスを感じさせる。加えてボーカルは、トゥー・ドア・シネマ・クラブとフローレンス・アンド・ザ・マシーンが出会った (!!)ような甘くて力強い唯一無二の美声を持っている。

 

そんな底抜けのポテンシャルが、速いテンポの曲でもバラードでも余すことなく発揮された渾身の2ndアルバム。この頃、Catfish and the Bottlemenをはじめとして若くて実力のあるバンドがUKからたくさん出てきているけど、Nothing But Thievesは抜きん出ている。

 

それにしてもこのジャケット、ガンダムUCバンシィみたいでカッコイイね。

 

7. サニーデイ・サービスPopcorn Ballads」

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2016年のアルバム「DANCE TO YOU」がとてもとてもよかったサニーデイ。本作は配信限定という話題性があったし、上半期ベストを選ぶときに挙げていた人も多かったので自然に興味が湧いていた。

 

7月中旬、ミニシアター・京都みなみ会館でジャン・リュック・ゴダール作品のオールナイト上映に映画ファン友達 (全員1989年生まれの同い年。うち2人は初対面)に行こうというイベントがあり、行きしなに聴いていたのを思い出す。青春だな。

 

冒頭の「青い戦車」「街角のファンク」「泡アワー」「炭酸xyz」からファンク、ヒップホップ、エレクトロニカが繰り広げられるけど実験性というよりもポップな伝わりやすさのあるトラックが続いていくのがいい。「炭酸」っていうモチーフはサニーデイの曲のイメージにバッチリ合うよね。前作の「I'm a Boy」を聞いた時に、さくらんぼ付きメロンクリームソーダみたいな甘酸っぱい爽やかさがが脳裏に浮かんだんだけど、そのイメージをキープしたままたリズムの工夫やサンプリングに手を広げていくサニーデイ、いいなぁと思う。アルバムの中でも「Summer baby」が好きだ。

 

6. Geotic「Abysma」

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「Baths」名義でエレクトロニカ・アルバムをリリースしていたLA出身のトラックメイカーによる別プロジェクト。

 

Bathsの作品では2010年リリースのアルバム「Cerulean」が特に好きだった。ノイジーでやかましいようで心が静かに落ち着いているような独特の雰囲気がある。雨の日が似合う。

 

上記ツイートには「アンビエント」にフォーカスしたと書いてあるけど、このアルバム「Abysma」はBPM120くらいの4つ打ちビートが常に鳴っている。ダンサブルというより、むしろシンプルなリズムの反復によって聴き手をトランス状態に誘う効果が大きいと思う。

 

シンセや電子ピアノ、ボーカルサンプリングを丁寧に折り重ねた浮遊感の強い音像が心地良くて、地平線まで広がる空飛ぶ絨毯に乗っているような気分になれる。そんな恍惚状態で方角を見失わないように、4つ打ちビートがガイドしてくれる安心感がある。

 

一定のリズムでビートが鳴り続けるっていうのは、約0.5秒後には同じ音が自分を受け止めてくれるループの中にいられるっていうことで、この瞬間がいつまでも続くようなキラキラした感覚に浸れることだと思っている。そういう安心感だ。曲数を重ねるにつれてポジティブな雰囲気が増して行き、見上げた大空が青く澄みきっていくような展開になっているのがいい。

 

そしてシュールな良いジャケットだ。

 

5. ヨルシカ「夏草が邪魔をする」

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ボカロP・コンポーザーのn-bunaがボーカル・suisを迎えて組んだバンドの第一作。初音ミクから生の女性ボーカルへ歌い手が変化しただけでなく、生のバンドの躍動感をより活き活きと響かせるようになった曲が並んでいる。

 

n-buna氏は元々DTMに取り組んでいたということで、リズムパターンの作りこみが面白い。時計のチクタク音やベルを組み合わせたビートが生演奏と同期した楽曲「雲と幽霊」は彼らしさが炸裂していると思う。

 

ボカロPとしての2ndアルバム「花と水飴、最終電車」も夏をテーマにした作品だったけど、「花水電車」が自分の不甲斐なさを痛感させられながらずっと空を見ているような切なさを湛えていた一方で、本作:「夏草が邪魔をする」には "それでもいいよ" と言ってもらえているような救いを感じる。

 

収録曲からPVが2曲分製作されたんだけど「靴の花火」は短編映画のようなイメージ、「言って。」は手描きイラストがダンスするアニメということで振れ幅が見事だ。

 

www.youtube.com

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4. Bonobo「Migration」

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イギリス・ブライトン出身、LAを中心に活動するプロデューサー・Bonoboの6作目のアルバム。本作も2017年上半期ベストを選ぶときランクインさせてた人が多くて、自然に興味が湧いていた。


今年の5月に公開された映画「メッセージ」を観た時、冒頭のシーンで、湖の上に一面に広がる灰色の空がひたすら美しく映っているのがとても印象的だった。そんな、色数の抑制された景色が情感を大きく掻き立てていくようなダイナミズムがBonobo「Migration」にはある。彩度の低いインクだけを使って濃淡を巧みにコントロールしながら精緻な絵を描いていくように、音階よりも音色自体の響きで聴き手を圧倒していく。Rhye・Miloshの歌声も生のギターの音も、ワールドミュージックを取り入れたビートの中で一体感を持って鳴っている。

 

Four TetやFloating Pointsも同様のテーマに取り組もうとしていると見ているけど、一枚のアルバムとして纏まった最良の答えの1つがこの作品だと思う。ちなみに色彩設計が豊かなBonoboがいる一方、空間コーディネートに秀でたトラックメイカーがJamie XXだと考えている。このままThe xxについて書いていこう。

 
 3. The xx「I See You」

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2009年にデビューしたロンドン出身のバンド、待望の3rdアルバム。 

 

元々The xxというバンドの魅力は、静けさの中でギターの単音フレーズが鳴っている美しさと寂しさにあると思っていた。でも、2015年のJamie XXソロ作「In Colors」により、彼が生み出す楽曲の魅力が

・遠くで鳴っている音がクリアに聴こえることで生まれる浮遊感
・音の隙間を作り、そこでノれるように誘う巧みなエンジニアリング

であることを実感した。ビートが鳴っている空間を想定した音作りにとても長けたプロデューサーなのだと思う。The xxのデビュー作および2nd「Coexist」にあったミニマリズムの逆を行くカラフルな曲であっても、同様の気持ち良さをトラックに宿すことができる手腕がJamie XXにはある。

 

その上で届けられた3rdは以前よりメロディがクッキリし、開放的な雰囲気に変化を遂げた。前作・前々作の、静かな暗闇で親密さが感じられる美しさが、光と風の中にあるような明るいイメージの曲でも有効に響くことが証明されたアルバムになった。Jamieの卓越した空間デザイン力と、メンバーの連帯感・信頼感が結実した結果だと思う。

 

今年は出張中に「あー、The xx観てぇなー」と思い立ち、7月10日頃になってフジロックに行くことに決めた。行ってよかった。

 

来年2月には幕張メッセ単独公演という破格の大舞台を踏むことになった (僕も大阪公演を観に行く)。次にフジロックに来るとしたらヘッドライナーを務めてくれると信じている。これからもどんどん楽しみになっていく。


2. w-inds.「INVISIBLE」

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みんな大好きw-inds.だ!! KEITAとRYOHEIとRYUICHIの3人によるダンス&ボーカルユニット。

 

僕は小学校6年生の時に生まれて初めて自分の小遣いで買ったCDがw-inds.のシングル「Try Your Emotion (2002)」だったのだけど (だってあれ滅茶苦茶カッコ良くて当時衝撃的だったぜ)、2017年に、あのw-inds.にここまで熱くなってアルバムを通しで聴きまくるなんて全く想像していなかった。2016年時点の欧米のトレンディなポップスを貪欲に取り入れて自分たちのモノにし、洗練されていながら音圧が強くなくて聴きやすい楽曲が並んだアルバムになっている。

 

去年、ベストアルバム2016で宇多田ヒカルについて「 "この人のチームに勝てる国内アーティストは誰一人として見つかりません" と降参せざるを得ないような、圧倒的な説得力がある」 と書いたんだけど、w-inds.橘慶太も相当スゴイことになっている。興味を持った音楽をスペクトラムアナライザで周波数分析してトラックメイカー&エンジニアとしての手腕を磨き、ハイトーンのファルセットが出せるように喉の筋肉を鍛え上げ、キレのあるダンスのために屈強な肉体を維持し、おまけに松浦亜弥の夫だ。最強かよ。

 

先行シングル「We Don't Need To Talk Anymore」をはじめ、近年の「曲のいちばん盛り上がるところは歌ではなく、歌声を加工したシンセ音のリフにする展開 (=ボーカルドロップ)」を取り入れている。それが単なる流行への追随ではなく、自分たちの武器を存分に活かせる選択になっているのがすごくいい。だってw-inds.は息の合ったダンスがカッコイイんだから、ボーカルドロップのところでは歌わないことで「踊りで魅せる」ことができる。ダンスはPVやライブ映像でしか見られないけど、メンバー3人の息がバッチリ合って生まれる上質なハーモニーや掛け合いがアルバムの随所で炸裂している。

 

アーティストの武器が存分に活かせる恰好のフォーマットを主体的に選択し、セルフプロデュースされたトラックを携え、あどけない少年に見えていた3人が自らJ-POPの未来を切り拓こうとしている。その道の続く場所は(きっと) New Paradise

 

1. LANY「LANY」

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 LAで2014年に結成された3人組のバンドによるファースト・フルアルバム。 サマソニでこのバンドを観た時クイックレポートを投稿させてもらった。

quickreport.hatenablog.com

 

このとき、「LANY」のLAはLos Angelesを指してるのかな? と考えてたけど後で調べたら正解だった。LAからNYまで、全米を制覇するという意気込みでこのバンド名になったんだって。

 

バンド編成で、シンセやシンセパッドやサンプラーを駆使したエレクトロニカ寄りの音楽を演っている。ドリーミーなポップという点でThe 1975に通じる魅力があり、音数の少ない楽曲デザインはThe Chainsmokersらを彷彿とさせる。それがトラックメイカー/プロデューサー目線の実験ではなく、ほぼ初めてのプロパーなバンドで、デビュー間もないバンドだけが持つ青春の煌きの中で鳴っている。

 

このバンドの夢見心地感は、恋に落ちたり思いが届かなくて落胆したりしてる状況のような、プリミティブで純粋なものだと思う(「IT」でベバリーにときめかざるを得ないあの感じだ)。

 

かつて実験性があると捉えられていた音楽が、若いバンドによって自然体のまま放たれる楽曲に宿るようなそんな状況がやってきた。そんなことでアツくなったのもあって、ハマって何度も何度もリピートした。

 

 

===

 

というわけで年間ベストアルバム2017。年内にまとめることが出来てよかった。「今の自分はこういう音楽が好きなモードなんだ」という観点で選んだ。「この一枚がシーンに与えた影響って〇〇だよね」みたいなことは、3~4年してから見つめなおせばいいと今は思う。

 

ちなみに曲単位のベストはDJコントローラーでひとつのミックスにしてみました。

よろしくどうぞ

 

【新感染 (부산행)】誰かを犠牲にして前進し続けるのってシステム開発の現場みたいだ

「新感染 ファイナル・エクスプレス (Train to Busan)」について。

 この記事のタイトルから「仕事がゾンビ退治みたいな際限なきクソゲーでつらいお」という印象が醸し出されているかもしれないけど、せっかく良い映画を引き合いに出すので前向きな話に纏まるように書こうと思う。映画の中の舞台設定やセリフと、仕事で直面する業務の様相を関連付ける。

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システム開発・維持の仕事をしてると、過去に混入したバグが掘り起こされたり、急な客先の仕様変更要求が発生したりして、改修・リリース作業が後から後から沸き起こる。まるで次から次へと襲い掛かってくるゾンビを相手にしているみたいで、働いている限りそんな終わりの見えない消耗戦を続けなければならないのだろうかと思うことがある (品質管理と客先調整の不足によって案件が望ましく無い状態に転がり落ちてしまったケースなのだけど、業界的には結構よくある状況なのかもしれない)。

 

10月中旬、予告編が面白そうだったので映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」を観てきた。狂暴なゾンビが次から次へと襲い来る作品だった。

 

【作品概要を自分なりに要約】
韓国の高速鉄道: KTX。時速300 km台のハイスピード閉鎖空間で「ゾンビに噛まれるとゾンビ化する」という謎のウィルス感染症が爆発的に拡大。乗務員も乗客も次々と、人間を発見するや否や雪崩を打って襲い掛かる怪物に成り果ててしまった。娘を連れてKTXに乗車したサラリーマン: ソグ、屈強なコワモテおじさんのサンファと妊娠中の妻ソンギョン、そして野球部の高校生たちは、ゾンビに対して数でも暴力性でも圧倒的劣勢の中で、終点・釜山まで生き抜こうとする。


【主要登場人物紹介】
■ソグ
サラリーマンで妻と別居中。ソウルにいる母親に会いに行くため、娘とKIXに乗る。
(吹き替え声優は中村悠一だ!!)

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■スアン

ソグの娘。釜山にいる母親に会いたがっている。

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■サンファ
下記・ソンギョンは妊娠中の妻。

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このサンファではない (蛇足)

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■ソンギョン
(吹き替え声優は坂本真綾だ!!) 

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■野球部の少年、ヨングク

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■ヨングクの彼女、ジニ
(なんかこの子の顔すごくタイプだ) 

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ソグとサンファとヨングクがいるデッキから、スアンとソンギョンとジニのいるデッキとの間にはいくつかの車両があり、どの車両も感染したゾンビでいっぱいになっている。サンファの筋肉と男気と勇気を前面に押し出し、ソグがゾンビたちの習性を利用して出し抜くクレバーなアイデアを実行し、それぞれの大切な人に会えるようにゾンビ達に立ち向かう。メンズ達は身を危険に晒し、自分が犠牲になる危険性も厭わずに、狂暴な怪物たちでひしめく車内を切り抜けていく。

 

観終わってから、仕事の状況について改めて見つめ直してみた。システム開発の現場でも、誰かが犠牲になって道を切り拓かなくてはならない状況が常にある。目立ったトラブルがなくても「客先要望に曖昧さがあるので確認してほしい」とか「開発環境のライセンスの期限が切れるから延長手続きしてほしい」とか「バックアップ用ツール追加するからネットワーク構成決めてほしい」とか諸々のタスクがチームに次々と降りかかる。

 

そういうときには開発チームの誰か1人に「君はプログラムを触らなくていいから、いろいろ面倒なことを処理して、開発が前に進むように障壁を除去してくれ」という役割を担わせるパターンが適用される。システム開発というイバラの道を突き進むため、ナタを振るって前方の障害を除去させるべく誰かひとりに「犠牲」になってもらう。

 

前述のように不具合や仕様変更が次々と発生したなら、先頭の犠牲者は早期に対処方針や期限を決めて調整しなければならない。だから開発の現場は「仕事を押し付けられまくって過労寸前まで働いちゃうヤバイ人」という意味の犠牲が出なくても、誰かが犠牲になって回っている。

 

(この「犠牲」の人は、開発スタイルによっては「スクラムマスター」と呼ばれたりするけどそれはまた専門的な別の話。)


んで、情報システムを扱っている会社というのは若手社員にいきなりこの「犠牲」役: ナタを振るってイバラを落として進む役を与えたりする。単に人手が足りないとか、プログラミングは外注するから取りまとめが主な仕事になるとか、そういう事情により僕もそういうポストに収まってしまった (入社3年目から)。
とてもめんどくさい仕事だと常々思っている。

 

そんな中で観た「新感染」劇中、特に印象的なセリフがあった。父親同士であるサンファとソグの会話。ソグの家庭事情を知ったサンファはソグに

 

「父親ってのは (妻や子供に)反対されようが犠牲になるもんだ。」

 

と告げる。

これは「今、ゾンビだらけの車内では俺たちが戦わなくてはいけない」という状況と、普段の家庭生活の中で「父親という役割を全うするには、妻や子供に気に入られないことがあっても、面倒なこと・つらいことを引き受ける犠牲になる必要があるんだ」という暖かいアドバイスが重ねられたセリフになっている。

 

物語では最終的に、サンファは妻を・ソグは娘を勇敢に守り抜いてみせる。


それで気づかされたのだけど、前述の「誰か1人を犠牲にする」パターンで戦っている人物は、製品なりサービスなりが無事にリリースされるように「お父さん」役を任されていると言えるんじゃないか。自分がプログラムを書くわけじゃないから、ものづくりの楽しみとは無縁だ。だけど、そういう人がその開発現場を支える柱になっている。

 

自分がまさにそういう仕事をしているので「俺が柱なんだぞ」なんて大きなことはとても言えない。現場における父親 = 大黒柱と言えるような大きな存在にはなれる気がしないし、なれるとしてもきっとすごく時間がかかると思う。でも、自分の選択と行動によって、自分の後ろを誰かが歩いてくれるという確かな達成感をささやかでも抱いていいような実感が湧いた。映画によって業が肯定された気分だ。


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全然関係ないのだけどこの作品、登場人物が使ってるスマホはどれもiPhoneじゃなくてサムスンのでかいやつなので、流石韓国だなぁと思ってしまった。自分はずっとiPhone 5Sを使っているのだけど、他人から「電話だよ。代わって」とAndroidの大きめのやつを渡されると「重っ!!」てなる。でもそれは僕が貧弱なだけかもしれない。父性を発揮するには到底腕力が足りない。

 

【ベイビードライバー】母親役スカイ・フェレイラとBABYの生まれた時代のこと

いろいろな方がポッドキャストやツイートでBABYDRIVERについて語っている。僕もこの作品について考えていて書いておきたいことが生じたので記事化。

母親役をスカイ・フェレイラという女優さんがやっているのだけど、この人は2013年にアルバムデビューした歌手。シンセ・ポップとロックが溶け合ったようなドリーミーな雰囲気の曲を出している。
音楽活動以外にもモデル・女優をしているとてもセクシーなレディーだ。

 

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 超かわいい (画像によるけど)。
ちなみにタイトルが圧倒的なインパクトの曲を出している。

 

 

 

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このビッチ感溢れる母親から産まれたBABYが、純粋でいい子なデボラと結ばれるというストーリーラインだけでなんかもうたまらない。

 

スカイ・フェレイラの音楽についていうと、アルバム「Night Time, My Time」では輪郭がぼやけた甘い雰囲気の曲が多い。聴いていると、遠くにある何かを思い出しているような、時間の経過によって風化した景色を見ているような感覚に浸れる。

 

これってBABYが記憶のフィルターの彼方にいる母親を思い出そうとして、ファジーにざらついた母親像を脳裏に結んでいる様が自然に追体験できるようになってるじゃん!! と気づいた。ニクい人選だと思った。

 

ところでBABYが幼いときにiPod (キューブ型パッケージの第1世代のやつ)をプレゼントされていることから、彼の生まれた時代について推察してみよう。

 

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初代iPodがリリースされたのは2001年。プレゼントをもらったときには3歳前後くらいの子に見えたので、生まれを1998年と仮定。するとBABYが8歳頃のときにYouTubeがスタート (2006年)し、10歳あたりでSpotifyがスタート (2008年)している、そんな時代を生きてきた子ということになる。

 

(※劇中のスカイ・フェレイラが本物のスカイ・フェレイラだとすると、スカイ・フェレイラは1992年生まれなので10代前半に出産したことになってしまう。そこにリアリティは求めないことにしよう)


BABYがティーンになる頃には、ネットワークにアクセスすればジョンスペだってダムドだってクイーンだって聴き放題な時代に世界は突入していた。お気に入りのiPodに音楽を入れて聴く以上、PCにインポートするためにCDを買うなり借りるなりしてはいたはずだけど、探求するならネットが便利なツールになる時代になっていた。だから、彼がロックもブラックミュージックも好きなことに対して「そんな詳しいやついるかwww」とはならなくて、親がミュージシャンともなれば彼レベルの音楽オタクが誕生することは全然不思議じゃない。

 

さらに劇中では彼の聴いていた音楽としてソウルやヒップホップの曲もたくさんかかるけど、彼が思春期を送る2010年代前半〜中盤は、ブラックミュージックが新鮮な勢いと話題性を得てロックファンをどんどん虜にしていく時代だったと思う:

 

2013年、ダフト・パンク「Random Access Memories」がリリースされる。

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2014年、ディアンジェロ「Black Messiah」がリリースされる。

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2015年、ケンドリック・ラマー「To Pimp A Butterfly」がリリースされる。

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……他にもいろいろなアーティストが充実した作品を出してきた。そういうムーブメントの延長線上に、わたしたち観客が生きている現実の2017年があり、実際にブラックミュージックが強い勢いを持っている。

 

僕はもともとロックやテクノが好きだったけど、2010年代には上に挙げたような超話題作が続々と出てくるので段々そっちに興味が湧いてきていた。で、BABYDRIVERという映画において映像とマッチした抜群の快感を放つ楽曲群が「な、ソウルもヒップホップも超カッコいいだろ?」と改めて知らしめてくれた。映画サントラの楽曲のプレイリストをApple Musicで組んで聴くのももちろん、リアルタイムでリリースされる現代のブラックミュージックを聴くのが一層楽しくなった。

そんなきっかけをくれた、いい映画だ。 

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その他気づいた小ネタ (自分で既にTwitterで書いたこととかのまとめ)

  • ベイビーの本名は「マイルズ」であることがデボラからの手紙で明らかになるけど、マイルは走行距離の単位じゃん。流石ドライバーだ
  • テキーラ」のシーンの銃撃戦の後、アジトに戻りドクに「バナナ」という符牒について教えられるとDarlingがウケる〜wwと言って “♪This shit is bananas, B-A-N-A-N-A-S” とグウェン・ステファニー「Hollaback Girl」を口ずさむ。グウェン・ステファニーは、スカイ・フェレイラが影響を受けたアーティストの1人に挙げられているという点でBABYの生い立ちとつながる。
  • 冒頭の「Bellbottoms」では「♪ラッ・ドッ・レ・ファ・レ・ド……」というストリングスのキメが鳴るのだけど、その後アジトのシーンでBABYが聴いている「Egyptian Reggae」では同様の「♪ラッ・ドッ・レ・ファ・レ・ド・ラ〜」というフレーズが鳴る。そしてジェイミー・フォックスが参加する会議シーンの「Kashmere」では音階上がって「♪ドミソラソミド〜 (であってるかな?)」が鳴る、という風に曲間でフレーズがリレーされていく様に選曲されている。超イイ。
  • BABYはベイビーというだけあって、随所で産毛が映るように撮られている (あるいは撮った絵がそう見えるように諧調補正されてるのかな?)。車がプレスされるシーンでは口髭の端の方、デボラとワイン&ダインでディナーするシーンでは頰、あと作戦会議のシーンでは首筋……などなど。観てておもしろい。

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参考: 詳細な楽曲解説として、Jimmie SoulさんのJimmie Soul Radioを聴いて「なるほど!!」とうなずくことがたくさんありました。未聴の方は是非是非お楽しみくださいc(´ω`)p

www.mixcloud.com

【シング・ストリート】RISSEI PROM PARTYに行ってきたよ

2017年10月9日(月・祝)、京都市内の最高気温は29℃。

元・立誠小学校のイベント「RISSEI PROM PARTY」に行ってきた。
会場に行く前から、鴨川も高瀬川もとても綺麗で良い気分になった。

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僕は立誠シネマには行ったことが無かったので、建物自体に入るのが初めてだった。
小学校の校舎を訪れて懐かしさを感じるというよりも、古びない魔法を宿した空間にいるような不思議な雰囲気に浸ることができた。

 

会場内の様子。

 

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古本・レコード市での買い物に行く前、講堂入り口の物販コーナーを見ていたら映画「シング・ストリート」にも登場するカセットレコーダーが置いてあって「おおー!!」となった。しかもメーカーは任天堂で京都つながりアピールしてる。

ちなみに劇中に登場するレコーダーには「National Panasonic」のロゴが入っていた (ブレンダンの部屋にあるやつ)。あれも日本製だったわけだ。

 

いろいろなお店が出店されていたしライブもやっていたけれど、やはりシング・ストリートの上映会が本当に良かった。パイプ椅子に座って、満員の講堂で静かな熱気をみんなで放ちながら映画を共有していた。

 

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ステージ脇の金色のバルーンに観客席が圧縮されて写り込んでいるのをみて「学校で観てるんだなぁ」と実感した。シング・ストリートは1度ブルーレイで観たことがあったけど、劇中と同じように飾り付けた講堂で多くの人と「見届ける」感じになったので一層思い出深い。

あの日観ていて、改めてグッときたシーンについて書いておきたい。そんなわけでここからは映画の感想。

 

【ダーレンというマネージャー】

僕は10年くらい前に京都で大学生をしていて、学園祭実行委員に所属していた。実行委員という組織の末端として駆けずり回って、計画を練ったり各方面と打ち合わせをしたりフィナーレの企画を練ったり当日にステージを建てたりテントを立てたり物品を運んだりコンセントを配電盤に繋いだりしていた。

そうやって顕現したおまつりに、人がたくさん来てくれて楽しんでいるのを観ると、本当に暖かい気分になった。


ダーレンが、プロムパーティでステージに立って演奏するコナーたちをフロアから見守って楽しそうに笑ってるシーン (口が半開きだったのがまたいい)で、「そう、そこから観る景色って格別だよね」と思った。

いじめられていたコナーに声をかけ、バンドのメンバーを集め、ミュージック・ビデオを撮影することでシング・ストリートというバンドは転がり出して行った。そんなドラマの立役者がダーレンだった。彼がフロアからステージを眺めて満足そうにしている瞬間が、学園祭の裏方をやっていたときの体験と重るようで、すごくじんわりした。

 


【エイモンという芸人】

大勢で映画を一緒に観る楽しみって、みんなで同じタイミングの笑いを共有するところにあると思う。
ダーレンがンギグにカタコトで話しかけるところも爆笑を誘っていたけど、この映画に暖かい笑いを加えて抜群に面白くしているのはやっぱりエイモンだと思う。

みんなで笑ったポイントを振り返る:

  • エイモン、ギターやベースやドラムだけじゃなくて民族楽器みたいなやつまで演奏できて、お前超人かよってなる
  • エイモン、無類のウサギ好きすぎて机の下でウサギを撫でている
  • エイモン、やはり無類のウサギ好きすぎてバンド名に “ラビッツ” を提案する
  • エイモン、冷静に見えて “ The Riddle Of The Model” の展開を練ってるときに「それで、花火がドーン!!」とか想像力抜群でドリーミンな一面を見せる
  • エイモン、中間試験などという常識的な概念を気にしているけど気にかけてるのはママだと弁明する
  • エイモン、ギター担当なのにギターソロを入れたがるわけでもなくバンド全体の俯瞰に徹していてあんまり目立ちたがらないタイプなのかと思いきや、パーティに女の子がたくさん来るとわかった瞬間に俄然ライブをやる気になる

良さみが深すぎる。

 

 

【コナーという少年】

物語の終盤、「JIM」と書かれたボートでダブリンを発つ時、彼の頰が真っ赤になっていたのがとても印象的だった。赤ちゃんかよと思うような色に染まっていた。寒いのだろうし、やはりコイツはまだ本当にガキなんだ、けど本当に勇敢でガッツがあって純粋でひたむきな男の子なんだ、と実感した。

 

彼はバンド名に “La vie”, フランス語で「人生」を意味する単語を挙げていた。その後のシーンで、登校中に「悲しみと喜びは同じ」について語るときのセリフや、“Drive it like you stole it” の歌詞には “人生” という単語がキーワードとして登場する。

 

再会したラフィーナに「これが人生よ。15歳の高校生とつるんで〜」と言われた時にはチクリと(カチンと?)と来たのか、ギグについて聞かれても答えようともせずに立ち去ってしまう。

 

ほっぺたを真っ赤に染めてるような あどけない少年が、そんな風に人生について真剣になるのはやっぱり家庭環境が冷え切っていたせいだと思う。でも、バンドを組んでデモを作り、ラフィーナに届けて行くことで彼の人生に確かな光が差して行く。少年だからこそ信じていられる、まっすぐでアツい夢や希望を追いかけていく。

 

金もツテも無いイギリスへ、ボートで渡るという冒険がどれほど無謀であっても、世界の神ですらそれを嗤う権利なんて持たない。彼の想いが届いて、嵐の向こうの行きたい場所へたどり着きますように……なんて風に、フィクションの中のキャラクターの未来が明るく開けることを願ってやまなくさせるような、本当にいい物語だった。

 

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ということで、すばらしい作品を極上のロケーションで楽しめて素晴らしい映画体験になった。

ありがとう、立誠小学校!!

 

【ラ・ラ・ランド】Someone In the Crowdの中盤から盛り上がってく展開ってEDMみたいで気持ちイイよね

「ベイビードライバー」といい「ドリーム (Hidden Figures)」といい、サントラが超キャッチーな作品がどんどん出てくる2017年だけど、今年の映画の劇中歌で1曲お気に入りを選べということになると “Someone In the Crowd” を真っ先に推したくなる。

 

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ラ・ラ・ランドでミア達がパーティへ出かけるシーンの曲。

 

www.youtube.com

 

この曲は全体通して明るくてポップでノリノリな雰囲気でとっても楽しい。特に、一旦静かになってから (上の動画でいうと1:04〜)ウッドベースやピアノやフルートが入ってじわじわ盛り上げてくとこが好きだ。盛り上がりがピークになって「ジャンッ!!」ってなってから、軽快なリズムのフレーズを反復させる流れに自然にノれる。
 
 
……という風に曲の流れを追いかけていて「ハッ!!」と気づいた。
 
 
この展開、EDMにそっくりじゃない!? と。
 
 
「EDM?? パリピ御用達みたいなアゲ⤴︎アゲ⤴︎ 系クラブミュージックと関係があるの? これジャズでしょ? 」と思うかもしれないけど、いやいやとっても良く似てる。
 
音を徐々に大きく派手にしながらじわじわ盛り上げていって、高みに達したところで休符がバシッ!! と炸裂して、シンセリフのループが高らかに鳴り続ける、というのがEDMの定番の展開*1

曲がいちばん盛り上がるところで、歌のパートじゃなくてリフ主体のインスト・パートを持ってくるのが特徴というかキモというか必殺武器だ。具体例はこんな感じ。
 
www.youtube.com (0:45あたりから盛り上がってく) 
 
www.youtube.com(1:20あたりから盛り上がってく) 
 

この楽曲展開は、クラブやフェスで、観客が知らない曲でもみんなが盛り上がれるようにパターン化された定石として確立されている。それが確かな求心力に繋がっていることは、上記の2曲の再生回数を見てもらえば伝わると思う。
 
EDMの人気は文化や言語を超えて広がり、このジャンルを中心に据えたイベント「ULTRA MUSIC FESTIVAL」はフロリダを起点にスペイン、ブラジル、アルゼンチン、韓国、南アフリカ、コロンビア、タイ、マカオシンガポールそして日本へと進出して行ったー。
 
 
……で、ラ・ラ・ランドに話を戻そう。
"Someone In the Crowd” ではゆっくりじっくり高揚感を煽り立て行くパートは、いろんな楽器の音が徐々に重なり合って一緒に上昇曲線を描いていくことでワクワク感を膨らませていく。そしてEDMにおけるシンセ・リフの代わりに、この曲では「ド!  ド! ド〜レ〜ミ レ! レ! レ〜ミ〜ファ」のフレーズが炸裂し、楽器が舞い踊る。
 
ラ・ラ・ランドの劇伴を手がけたジャスティン・ハーウィッツが、今風のクラブミュージックを意識してスコアに取り入れようとしたのかは定かでない。映画で描きたいシーンに合わせて曲を組み立てたら、偶然この流れになったのかもしれない。
 
いずれにせよ言葉や文化を超えて届くクラブミュージックとの共通点があることは、この映画が持っている、ミュージカルに馴染みがない人でも虜にしてしまう求心力を強く後押ししていると思う。
 
劇中映像バージョンの動画も観てみよう。
 
 
 
曲がじわじわ盛り上がってくところは、ミアがベッドで横になって想像膨らませてるシーンになっている。期待感が胸のうちでロマンチックに高まっていくところだ。
 そしてサントラ収録版とは違って映像では、ピークのところでちょっと焦らしてから「ジャンッ!!」ってなる。こういうズラしもEDMのPVでよくある(ちなみに僕は、この4人のうち誰がいいかで言ったら、迷わず黄色のお姉さんを選ぶぜ。ホットじゃん)。
 
 
EDM的展開の後、ミアが鏡と向き合っているシーンでこの曲はまた静かになる。そこからは流麗なストリングスがWest Side Storyの「Tonight」序盤みたいにふわりとしていいなぁと思った。そしてフィナーレでまたドカーン˜!! と盛り上がるのがたまらない。
 
 
そういうわけで "Someone in the Crowd" は、イマドキの流行りの音楽に通じる魅力がありつつ、ハリウッドの古き良きミュージカルのスコアも彷彿とさせるモダンでスマートなポップ・ソングとして「観るもの全てが恋に落ちる、極上のミュージカル・エンターテイメント」というキャッチコピーを見事に体現している。
 

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※今回のネタは、8月頭にcinemactifのポッドキャストにおたよりで投稿した話が元です (イワキと名乗っていました)。おたより、読んでいただきありがとうございました!!
 
 

*1:

カルヴィン・ハリスの歴史を紐解く記事が詳しい。

【ダンケルク】民間船の名前とストーリーのリンクを考察した

 


クリストファー・ノーラン監督作の「ダンケルク」。

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(※ネタバレ注意)


1回目はIMAXで観て圧倒されて、2回目をIMAXじゃなくてもいいからとにかく観たい!! ということで塚口サンサン劇場で観た。劇場で迫力ある映像・音響体験ができることも魅力だけど、帰ってから思い出したり脳内上映したりする中ですごくじんわりする映画だと思う。ギブソンの誠実な優しさとか、夕暮れの浜辺を滑空するスピットファイアの勇姿とか。

 

劇中、ダンケルクの浜にやってくる非武装のボートの名前を見ていて、深読みしたらストーリーとこんな風にリンクするんじゃない!? と勝手に盛り上がったので記事にしちゃう。

  1. NEW BRITANNIC
  2. ENDEAVOUR
  3. MOONSTONE

の、3挺について。

 

ちなみに本作の撮影風景写真が膨大にアップされているサイトがある。どの写真もタグ付けされていて、「BOAT」というタグの画像だけで662枚もある!!

Dunkirk - photos and videos of behind the scene

 

ファンの方が、沖合での映画撮影の模様を2016年に望遠レンズで撮りためていた模様。

 

それではひとつづつ紐解いていく;

 

 

1. NEW BRITANNIC

dunkirk-the-movie.com

 

防波堤にいる司令官 (ケネス・ブラナー)が双眼鏡で沖合を眺めている。陸軍将校が「何が見える?」と尋ねる。司令官は答える。「故国(Home)だ」と。

 

その次のシーンで、本当にたくさんの民間船がダンケルクの浜に兵士を迎えに来た様子が映るのだけど、名前が分かるようにアップで映る船のひとつが ”New Britannic”、「新しい英国」という名前の船だ*1

 

この「新しい英国」というモチーフは、映画の最後にトミーが読み上げる新聞記事で、チャーチルの戦意高揚演説に出てくるビジョンとリンクしていると思う。

 

演説の最後は「この島が制服され、飢えに苦しむことになっても、我々は戦い続ける。いつの日か、新世界の新しい力が古い世界を救い、解放するまで」というフレーズで締めくくられる (細部は省略)。この言葉で示されている未来が「新しい英国」に呼応していると捉えた。そういう名前の船が兵士達を助けにやってくる展開になっている。

 

兵士が一時的に戦場から救い出されても、ずっとずっと戦争を続けようとする英国。ダンケルクの浜から生還しても、ドイツとの戦いがまだまだ待ち受けている過酷な運命を想起させる。


「古い世界を救い、解放するまで」という言葉は、戦争の終わった平和な世界の訪れを意図しているような気が一瞬はしていた。でも実際には第二次中東戦争 (1956〜)、フォークランド紛争 (1982〜)、北アイルランド問題など火種は絶えていなかった。この映画で描かれている勇気や信頼、誠実さが美しく見えたとして、それは戦争という凄惨で終わりの見えない過酷な事象の中の本当に短く儚い一瞬に過ぎない。

 

 

2. ENDEAVOUR

dunkirk-the-movie.com


Endeavourという単語自体が「困難な状況に立ち向かう・努力する」という意味。

本作の予告編でリフレインしていた ”We Shall never surrender” は元々、「大英帝国は決して降伏しない」という国家レベルの大義だった。それが本作では「生きて還ることを絶対に諦めない」という一人一人の強い意志を言い当てたフレーズに読み替えられている。そんな生き残りをかけたEndeavourの過程がこの作品そのものだ。

 

それから僕はノーラン監督の前作「インターステラー」がとっても好きなので、宇宙に関連するワードが出てくると思わず反応する態勢ができていた笑。「エンデバーって、スペースシャトルの名前じゃん」と思わずにいられなかった。

 

よく調べて見ると (映画の舞台からすればずっと未来の話なのだけど)、アポロ15号計画で月に行った司令船がエンデバーという名前だった。このアポロ15号計画のミッションでは、月面着陸によって月の石を地球に持って帰ることに成功する。

この点が、後述する「MOONSTONE」という船の名前にリンクするというミラクルが起きている。すごい偶然!!

 

 

3. MOONSTONE

dunkirk-the-movie.com

 

ミスター・ドーソン、ピーター、ジョージを乗せてイギリスから出発する遊覧船。


アメリカのアポロ計画を引き合いに出すのは流石に拡大解釈が過ぎるにしても、「月の石」という名前の船でドラマが展開されれるのはとてもいいと思う。

 

まるで「民間の遊覧船がドーバー海峡を渡って戦争真っ只中のダンケルクに行って、兵士を乗せて、Uボート爆撃機の攻撃をかいくぐって生きて帰ろうなんて、奇跡か魔法でも怒らない限り無茶だ。そんなの、月に行って石を拾って帰ってくるようなものだよ」とでも言いたげな意図を感じる。本作で描かれたダイナモ作戦は稀有にして勇敢で、イギリス人としては全人類に誇りたいようなエピソードなんだと思う。

 

だから、この映画の制作陣から、1940年に実際にその場で作戦に関わっていた人たちへの惜しみない敬意を込めたエールとして「Moonstone」という名前の船に海・空・防波堤のそれぞれの登場人物が集まっていく映画になっているんだと解釈している。

 

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そんな風に、ディテールを読み解くことでストーリーや背景などいろいろな点が立ち上がってくる作品ってとってもいいなぁと思う。2017年に観た映画のなかでも、特に印象深くて思い入れの強い一本になった。