もうGood Morning

好きな映画、音楽について

ベストアルバム2017

今年よく聴いた音楽について。良かったと思うアルバムを9枚選んだ。順位もつけた。

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一枚ずつ紹介・レビューを書くにあたり、メジャーでないアーティストも挙げていると思うので各盤について【どんなアーティスト?】【どんな経緯でこのアルバムを知ったか】【ひとことコメント】は入れるようにした。アルバムと出会った経緯については「新しい音楽とどう出会っていったか?」という事例を振り返る意味でも残しておきたい。ちなみに去年のベスト。

 

itsalreadymorning.hatenablog.com

 

それでは、9位から順にあげていくよ


9. The Horrors「V」

 

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イギリスのインディー・ロックバンド。2007年にアルバムデビュー。本作が5枚目のアルバム。もともと2011年リリースの3rd「SKYING」はすごく気に入っていた。
今作はBOOM BOOM SATELLITESの中野さんがオススメしてはったのでチェックした。

 

アークティック・モンキーズ登場以降の2007年デビュー、つまりクラクソンズとほぼ同期のバンドで、活動休止や解散を1度もせずにアルバム1枚ごとに着実に前進してるのってホラーズ以外にはフォールズほか数えるくらいしかいないんじゃないだろうか。00年代後半のUKロックシーンをリアルタイムの洋楽の原体験としてきた自分には、あの頃にデビューしていたアーティストをこれからも追っていたい願望がある。ホラーズは残された希望だ。轟音ギターノイズと横ノリのダンス・ビートが組み合わさわり、上昇体験ではなく暗闇で腰を落として揺れ続けるようなトリップ感をもたらしてくれる。

 

ラストの「Something to Remember Me By」は大名曲。ニュー・オーダーからバトンを引き継ぎながら、ここから更に大物になっていくような勢いを感じさせる。

 

 8. Nothing But Thieves「Broken Machine」

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2015年にアルバム・デビューしたイギリスのロック・バンド。本作が2枚目のアルバム。サマソニに2015・2016の2年連続で出場していることもあり、名前はすっかり自分の中で浸透していたので気になっていた。今回の2ndアルバムリリースを機に改めて聴いてみた。

 

ダンサブルなポップスが全盛の今では珍しい、直線的なギターロックを堂々と演っている。パンクやガレージロックよりも重厚で、ヘヴイーロックよりも軽快……という絶妙なスピード感と重さがあり、「Nicheシンドローム」期のONE OK ROCKや「Liberation Transmission」「Betrayed」頃のロストプロフェッツに通じる稀有なバランスを感じさせる。加えてボーカルは、トゥー・ドア・シネマ・クラブとフローレンス・アンド・ザ・マシーンが出会った (!!)ような甘くて力強い唯一無二の美声を持っている。

 

そんな底抜けのポテンシャルが、速いテンポの曲でもバラードでも余すことなく発揮された渾身の2ndアルバム。この頃、Catfish and the Bottlemenをはじめとして若くて実力のあるバンドがUKからたくさん出てきているけど、Nothing But Thievesは抜きん出ている。

 

それにしてもこのジャケット、ガンダムUCバンシィみたいでカッコイイね。

 

7. サニーデイ・サービスPopcorn Ballads」

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2016年のアルバム「DANCE TO YOU」がとてもとてもよかったサニーデイ。本作は配信限定という話題性があったし、上半期ベストを選ぶときに挙げていた人も多かったので自然に興味が湧いていた。

 

7月中旬、ミニシアター・京都みなみ会館でジャン・リュック・ゴダール作品のオールナイト上映に映画ファン友達 (全員1989年生まれの同い年。うち2人は初対面)に行こうというイベントがあり、行きしなに聴いていたのを思い出す。青春だな。

 

冒頭の「青い戦車」「街角のファンク」「泡アワー」「炭酸xyz」からファンク、ヒップホップ、エレクトロニカが繰り広げられるけど実験性というよりもポップな伝わりやすさのあるトラックが続いていくのがいい。「炭酸」っていうモチーフはサニーデイの曲のイメージにバッチリ合うよね。前作の「I'm a Boy」を聞いた時に、さくらんぼ付きメロンクリームソーダみたいな甘酸っぱい爽やかさがが脳裏に浮かんだんだけど、そのイメージをキープしたままたリズムの工夫やサンプリングに手を広げていくサニーデイ、いいなぁと思う。アルバムの中でも「Summer baby」が好きだ。

 

6. Geotic「Abysma」

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「Baths」名義でエレクトロニカ・アルバムをリリースしていたLA出身のトラックメイカーによる別プロジェクト。

 

Bathsの作品では2010年リリースのアルバム「Cerulean」が特に好きだった。ノイジーでやかましいようで心が静かに落ち着いているような独特の雰囲気がある。雨の日が似合う。

 

上記ツイートには「アンビエント」にフォーカスしたと書いてあるけど、このアルバム「Abysma」はBPM120くらいの4つ打ちビートが常に鳴っている。ダンサブルというより、むしろシンプルなリズムの反復によって聴き手をトランス状態に誘う効果が大きいと思う。

 

シンセや電子ピアノ、ボーカルサンプリングを丁寧に折り重ねた浮遊感の強い音像が心地良くて、地平線まで広がる空飛ぶ絨毯に乗っているような気分になれる。そんな恍惚状態で方角を見失わないように、4つ打ちビートがガイドしてくれる安心感がある。

 

一定のリズムでビートが鳴り続けるっていうのは、約0.5秒後には同じ音が自分を受け止めてくれるループの中にいられるっていうことで、この瞬間がいつまでも続くようなキラキラした感覚に浸れることだと思っている。そういう安心感だ。曲数を重ねるにつれてポジティブな雰囲気が増して行き、見上げた大空が青く澄みきっていくような展開になっているのがいい。

 

そしてシュールな良いジャケットだ。

 

5. ヨルシカ「夏草が邪魔をする」

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ボカロP・コンポーザーのn-bunaがボーカル・suisを迎えて組んだバンドの第一作。初音ミクから生の女性ボーカルへ歌い手が変化しただけでなく、生のバンドの躍動感をより活き活きと響かせるようになった曲が並んでいる。

 

n-buna氏は元々DTMに取り組んでいたということで、リズムパターンの作りこみが面白い。時計のチクタク音やベルを組み合わせたビートが生演奏と同期した楽曲「雲と幽霊」は彼らしさが炸裂していると思う。

 

ボカロPとしての2ndアルバム「花と水飴、最終電車」も夏をテーマにした作品だったけど、「花水電車」が自分の不甲斐なさを痛感させられながらずっと空を見ているような切なさを湛えていた一方で、本作:「夏草が邪魔をする」には "それでもいいよ" と言ってもらえているような救いを感じる。

 

収録曲からPVが2曲分製作されたんだけど「靴の花火」は短編映画のようなイメージ、「言って。」は手描きイラストがダンスするアニメということで振れ幅が見事だ。

 

www.youtube.com

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4. Bonobo「Migration」

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イギリス・ブライトン出身、LAを中心に活動するプロデューサー・Bonoboの6作目のアルバム。本作も2017年上半期ベストを選ぶときランクインさせてた人が多くて、自然に興味が湧いていた。


今年の5月に公開された映画「メッセージ」を観た時、冒頭のシーンで、湖の上に一面に広がる灰色の空がひたすら美しく映っているのがとても印象的だった。そんな、色数の抑制された景色が情感を大きく掻き立てていくようなダイナミズムがBonobo「Migration」にはある。彩度の低いインクだけを使って濃淡を巧みにコントロールしながら精緻な絵を描いていくように、音階よりも音色自体の響きで聴き手を圧倒していく。Rhye・Miloshの歌声も生のギターの音も、ワールドミュージックを取り入れたビートの中で一体感を持って鳴っている。

 

Four TetやFloating Pointsも同様のテーマに取り組もうとしていると見ているけど、一枚のアルバムとして纏まった最良の答えの1つがこの作品だと思う。ちなみに色彩設計が豊かなBonoboがいる一方、空間コーディネートに秀でたトラックメイカーがJamie XXだと考えている。このままThe xxについて書いていこう。

 
 3. The xx「I See You」

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2009年にデビューしたロンドン出身のバンド、待望の3rdアルバム。 

 

元々The xxというバンドの魅力は、静けさの中でギターの単音フレーズが鳴っている美しさと寂しさにあると思っていた。でも、2015年のJamie XXソロ作「In Colors」により、彼が生み出す楽曲の魅力が

・遠くで鳴っている音がクリアに聴こえることで生まれる浮遊感
・音の隙間を作り、そこでノれるように誘う巧みなエンジニアリング

であることを実感した。ビートが鳴っている空間を想定した音作りにとても長けたプロデューサーなのだと思う。The xxのデビュー作および2nd「Coexist」にあったミニマリズムの逆を行くカラフルな曲であっても、同様の気持ち良さをトラックに宿すことができる手腕がJamie XXにはある。

 

その上で届けられた3rdは以前よりメロディがクッキリし、開放的な雰囲気に変化を遂げた。前作・前々作の、静かな暗闇で親密さが感じられる美しさが、光と風の中にあるような明るいイメージの曲でも有効に響くことが証明されたアルバムになった。Jamieの卓越した空間デザイン力と、メンバーの連帯感・信頼感が結実した結果だと思う。

 

今年は出張中に「あー、The xx観てぇなー」と思い立ち、7月10日頃になってフジロックに行くことに決めた。行ってよかった。

 

来年2月には幕張メッセ単独公演という破格の大舞台を踏むことになった (僕も大阪公演を観に行く)。次にフジロックに来るとしたらヘッドライナーを務めてくれると信じている。これからもどんどん楽しみになっていく。


2. w-inds.「INVISIBLE」

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みんな大好きw-inds.だ!! KEITAとRYOHEIとRYUICHIの3人によるダンス&ボーカルユニット。

 

僕は小学校6年生の時に生まれて初めて自分の小遣いで買ったCDがw-inds.のシングル「Try Your Emotion (2002)」だったのだけど (だってあれ滅茶苦茶カッコ良くて当時衝撃的だったぜ)、2017年に、あのw-inds.にここまで熱くなってアルバムを通しで聴きまくるなんて全く想像していなかった。2016年時点の欧米のトレンディなポップスを貪欲に取り入れて自分たちのモノにし、洗練されていながら音圧が強くなくて聴きやすい楽曲が並んだアルバムになっている。

 

去年、ベストアルバム2016で宇多田ヒカルについて「 "この人のチームに勝てる国内アーティストは誰一人として見つかりません" と降参せざるを得ないような、圧倒的な説得力がある」 と書いたんだけど、w-inds.橘慶太も相当スゴイことになっている。興味を持った音楽をスペクトラムアナライザで周波数分析してトラックメイカー&エンジニアとしての手腕を磨き、ハイトーンのファルセットが出せるように喉の筋肉を鍛え上げ、キレのあるダンスのために屈強な肉体を維持し、おまけに松浦亜弥の夫だ。最強かよ。

 

先行シングル「We Don't Need To Talk Anymore」をはじめ、近年の「曲のいちばん盛り上がるところは歌ではなく、歌声を加工したシンセ音のリフにする展開 (=ボーカルドロップ)」を取り入れている。それが単なる流行への追随ではなく、自分たちの武器を存分に活かせる選択になっているのがすごくいい。だってw-inds.は息の合ったダンスがカッコイイんだから、ボーカルドロップのところでは歌わないことで「踊りで魅せる」ことができる。ダンスはPVやライブ映像でしか見られないけど、メンバー3人の息がバッチリ合って生まれる上質なハーモニーや掛け合いがアルバムの随所で炸裂している。

 

アーティストの武器が存分に活かせる恰好のフォーマットを主体的に選択し、セルフプロデュースされたトラックを携え、あどけない少年に見えていた3人が自らJ-POPの未来を切り拓こうとしている。その道の続く場所は(きっと) New Paradise

 

1. LANY「LANY」

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 LAで2014年に結成された3人組のバンドによるファースト・フルアルバム。 サマソニでこのバンドを観た時クイックレポートを投稿させてもらった。

quickreport.hatenablog.com

 

このとき、「LANY」のLAはLos Angelesを指してるのかな? と考えてたけど後で調べたら正解だった。LAからNYまで、全米を制覇するという意気込みでこのバンド名になったんだって。

 

バンド編成で、シンセやシンセパッドやサンプラーを駆使したエレクトロニカ寄りの音楽を演っている。ドリーミーなポップという点でThe 1975に通じる魅力があり、音数の少ない楽曲デザインはThe Chainsmokersらを彷彿とさせる。それがトラックメイカー/プロデューサー目線の実験ではなく、ほぼ初めてのプロパーなバンドで、デビュー間もないバンドだけが持つ青春の煌きの中で鳴っている。

 

このバンドの夢見心地感は、恋に落ちたり思いが届かなくて落胆したりしてる状況のような、プリミティブで純粋なものだと思う(「IT」でベバリーにときめかざるを得ないあの感じだ)。

 

かつて実験性があると捉えられていた音楽が、若いバンドによって自然体のまま放たれる楽曲に宿るようなそんな状況がやってきた。そんなことでアツくなったのもあって、ハマって何度も何度もリピートした。

 

 

===

 

というわけで年間ベストアルバム2017。年内にまとめることが出来てよかった。「今の自分はこういう音楽が好きなモードなんだ」という観点で選んだ。「この一枚がシーンに与えた影響って〇〇だよね」みたいなことは、3~4年してから見つめなおせばいいと今は思う。

 

ちなみに曲単位のベストはDJコントローラーでひとつのミックスにしてみました。

よろしくどうぞ