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【メッセージ/あなたの人生の物語】ヘプタポッドの言語ってこんな感じで出来てるんじゃない?

公開から1年以上経ってるけど最近またずっと映画「メッセージ」のことが原作小説含めて気になり出していた。というか初めて原作を読んだ時からずっと気になり続けている。

 

【以後、作品シナリオの核心に触れています】

 

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……去年のフジロック2017、2日目。コーネリアス登場前のステージ上スクリーンに投影された円環状のシンボルは、まさに映画「メッセージ」に登場するヘプタポッドのロゴグラムのようだった。

 

 

劇中のエイリアン: ヘプタポッドは、未来のことを既知として認識できる能力をもって世界を捉えている。噛み砕いて表現すると、「最終的にどうなるかが最初から分かっている」状態で生きている。

 

使っている言語によってその生き物の思考が既定されるという前提からすれば、ヘプタポッドの使用する言語は、文章のはじめから終わりまで全ての情報が同時に伝送されるような方式に則っていて、そういう言語を扱うために過去から未来までの情報を同時に保持できるということになる。

 

それって一体、どんな情報を届けるコミュニケーションになるんだろうか……?

 

 
<思考実験>

 

ピアノがある。

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ピアノでなくても、和音が鳴らせる楽器なら根本の原理的にはOK。

音階に言葉を割り当てておいて、

  • 主語を表す音
  • 述語を表す音
  • 目的語を表す音
  • 肯定/ 否定/ 疑問を表す音
  • etc...

を和音として同時に鳴らすことで、ひとつの文章を1個のコードで表現することを考えたい。1個のコードとして鳴らすことで、コードが伝わった瞬間に文章の全体像が届き、文章の結論が提示されることになる。これなら人間のように文章を頭から逐次的に処理していくのではなく「最終的にどうなるかが最初から分かる」様式に使えそうだ。

 

音で情報を伝達する方法にモールス信号があるけど、あれはトン・ツー・トン・トン・ツーという具合にリズムによって情報を表現しているので、結局逐次的処理が必要になる。だからリズムではなく、音階を利用することにこだわる。

 

以下のようにドレミファソラシドとド#、レ#、ファ#、ソ#、ラ#の合計12の基本の音階を「品詞」に割り当てる:

 

表1. 基本の音階に対する品詞等の割り当て (例)

 基本の音階  品詞
 ド  主語
 ド#  主語に対する修飾語
 レ  述語
 レ#  述語に対する修飾語
 ミ  目的語1
 ファ  目的語1に対する修飾語
 ファ#  目的語2
 ソ  目的語2に対する修飾語
 ソ#  補語
 ラ  補語に対する修飾語
 ラ#  肯定/否定/疑問/命令を決める語 
 シ  文型

 

 ドは主語を表現することにしたけど、具体的にどんな言葉を表すかはもっと細かい音階によって表現する。基本の音階のドが523.25 Hzのドだとして、以下のように「最も近い音はドなんだけど523.25 Hzよりちょっとズレてる音」を用意して言葉を割り当てていくよ。

 

表2. 詳細な音階に対する言葉の割り当て (例)

 音階に対応する周波数 [Hz]   対応する言葉 
 523.30  I
 523.35  You
 523.40  She
 523.45  He
 523.50  It
 523.55  We

 

0.05 Hzずつ周波数を変えて言葉を対応させているけど、もっともっと細かい刻みにしていくことで理論上は無限個の言葉を用意することが可能だ。とてつもなく緻密に調律できるピアノがいるね。


この考え方を推し進めていき、以下の8音をコードにすれば「28歳の私は刺激の無い人生を無難に選択するの?」という文章が表現できる。

 

表3. 例文                

 最も近い基本の音階    適当に決めた周波数 [Hz]   伝える言葉、文体、文型 
 ド  523.300   私
 ド#  554.374  28歳の
 レ  587.345  選択する
 レ#  623.264  無難に
 ミ  659.777  人生
 ファ  698.896  刺激の無い
 ラ#  422.221    疑問
 シ  493.900  SVO

 

同じ品詞の単語が複数必要な場合はオクターブ上の音を使うことで対処すればいいと思う。


原作小説の中でルイーズがヘプタポッドの出す音を「ずぶぬれになった犬が身をぶるっとやって体から水をふりはらおうとしている」と形容しているけど、それがつまり複雑な和音だとすれば、音階を分解することで情報を抽出できる (ルイーズが手配する「音響スペクトログラフ」は、まさしく周波数解析によってどんな音階が発せられているかを特定できるものだ)。


この形式に似たような何かを用いるとして、ヘプタポッドは文章の送り手が送信したい内容を (上記の例文でいうと8音を順番に処理するのではなく)一瞬で和音に置き換えて情報を伝送する。受け手はそれを一瞬で分解して理解する。それが可能なら、最終的な結果が最初の情報と同時に分かるようなパラダイムで生きていると言って差し支えないはずだ。

 

ロゴグラムにも話を広げちゃえー

作品の中ではヘプタポッドの音声言語と文字 ("ロゴグラム" と呼ばれた円環上のグラフィック)はぜんぜん関係がないように見える、ということになっているけどせっかくの思考実験なので関連付けてみようと思う。これまでの話の流れから、コードを2次元的に可視化すればいいだけだ。

 

以下のように基本の12音: ド、ド#、レ、レ#、ミ、ファ、ファ#、ソ、ソ#、ラ、ラ#、シをシンボル化する (アルファベットと#に線引いただけ)。

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この12シンボルを円環状に並べる。円周を12等分するとそれぞれのセクションが品詞などを表していることになる。回転させても同じ情報だ。

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で、前述の「基準の周波数からちょっと音階をズラす」操作の代わりに、それぞれのシンボルに線や点を描き加えることで単語の幅を持たせれば「28歳の私は刺激の無い人生を無難に選択するの?」はこんな感じに架空のロゴグラムで表現できたりするはず。

 

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ほら、これがエスカレートすればロゴグラムになりそうじゃん?

アルファベットに線引いたやつじゃなくて、抽象的な霞みたいなやつをベースのシンボルとして定義しておけばそれらしいものができそう。

 

実際には映画の中で登場するロゴグラムは、科学技術計算ソフトMathematicaでプログラミングされて生成されている。根本的な考え方がこれまでこの記事に書いて来たとこと通じているといいなぁと思う。

 

github.com

 

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ここへきて映画に絞ったコメントもちょろっと書いておきたい。
ドキュメンタリータッチでアナウンスが入るくだりが中盤で入る。 あのシーンは音楽の神秘的な雰囲気も相まって滅茶苦茶イイよね。人類が知らないことを知ろうとしていくことで扉が開いていく興奮と、分からないことが増えていく困難を想起させる冷たさがある。

 

で、その後で平原にいるイアンをルイーズが呼びに行くシーンがあって、

  1. ルイーズが宇宙船の方を見つめている
  2. イアンがルイーズに「ちょうど君のことを考えていたんだ (You know,I was just thinking about you)」と声をかける
  3. ルイーズが (何を言われるのか気になってちょっと驚いたみたいに)ワンテンポ遅れてイアンの方を振り向く
  4. イアンは「君のやり方は数学者みたいに緻密だ……」と仕事の話をする

という流れで運んでいく。3.の時点でドキッ とさせられつつ、なんだよ仕事の話かよぉ〜となった。(日本語字幕は2.で「君のやり方って〜」と出るのであんまり情緒がないのだが)

 

ちょっと驚いたみたいにワンテンポ遅れて振り向くっていうのは、この時点ではヘプタポッドの言語を習得できていないからこその仕草だ。イアンから彼が思っていることを聞くまで、彼のメッセージをルイーズは知ることができない。ストーリーの展開にバッチリ合った演出だ。

 

でも、もし仮に彼が何というか予め知っていたとしてもルイーズは同じようにリアクションするのかもしれない。


最終的な結果が分かっていても、この瞬間の続きが知りたくなるのが人生なのだから。