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【スパイダーマン: スパイダーバース】チャンス・ザ・ラッパーのポスターとストーリーの密なリンクを紐解くぞ

 3/16にレイトショーでスパイダーマン: スパイダーバース [2D吹替]を観てきた。圧巻の映像体験だった。CGアニメにコミックが動いているような演出を加えるだけでなく、ゲームをプレイしている感覚の「キャラクターが画面の中心にいて、手前に向かって走って来る時に角を曲がると背景がぐるっと回転する」ような描き方が取り入れられていて面白い。

 劇中に出て来る小物や各種アイテムにもこだわりが効いていて、主人公・マイルスの部屋に貼ってあるチャンス・ザ・ラッパーの「Coloring Book」のポスターにはニヤリとさせられた*1

Coloring Book

Coloring Book

  • チャンス・ザ・ラッパー
  • ヒップホップ/ラップ

 

 

【以下、作品シナリオの核心に触れています】

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  「Coloring Book」のポスターは「チラッと映る」レベルじゃなくて、寮の部屋にスパイダーマン達が到着し、ピーターがマイルスに部屋に残るよう説得する大事なシーンで執拗に映る。このポスターは何なのかということを考えていくと、本作との深いつながりが浮かび上がって来るように思える。

 

Coloring Book」というミックステープ

 

 シカゴ出身のアーティスト、チャンス・ザ・ラッパーが2016年に発表した「Coloring Book」という作品について。この作品はCDダウンロード販売も無く、ストリーミング配信のみでリリースされた。有料販売無しの「Mixtape」という位置付けの作品でありながら、ビルボードのチャートで全米初登場8位にランクインする (近年のヒットチャートでは純粋な売り上げだけでなく配信サービスの「再生数」等も加味される)という快挙を成し遂げた。 

thesignmagazine.com

 ちなみにどんな音楽作品かというと、ラップのカッコよさとゴスペルのような多幸感がポジティブなエネルギーを溢れさせる、音楽が最高に楽しいものであることを改めて強く実感させてくれる一枚だ。2016年の年間ベストアルバムに挙げた人もたくさんいたと思う (もっとたくさん語るべきポイントがあるのだけど映画の話にフォーカスするために紹介はあっさり目に留めておく)。

 

 ペインターのマイルス、テープを再生するアーロンおじさん

 

 「Coloring Book」すなわち塗り絵帳というタイトルがそもそも「スパイダーバース」のテーマに見事に繋がると思う。塗り絵は、既にある線画を自分なりの色で塗り上げていくものだ。「スパイダーバース」では、スパイダーマンというヒーロー像が既に確立されている状況で、マイルスはそれを新しく自分の色で染めていくことを選択する。だからこそマイルスはグラフィティアートを楽しむ少年: キャンバスを自分なりの色で染めていくキャラクターであることがバッチリハマる。

 

 アーロンおじさんに連れられて地下鉄の線路を辿って行き着いた場所で「Great Expectations」にインスパイアされたグラフィティを壁に描いていく時、おじさんはカセットテープでBGMを再生していた。今ならスマホからBluetoothスピーカーで爆音再生もできるのに、あえてカセットのミックステープを再生する。それも「Coloring Book」がCDではなくmixtape名義だったことと重なってイイね。

 

 そう考えるとチャンス・ザ・ラッパーというアーティストはマイルスの「推し」というだけでなく、マイルスとアーロンおじさんの繋がりにおいて大事な存在なんだと思えて来る。 

 

Same Drugs」の歌詞のこと

 

 アルバム「Coloring Book」の中でも特に印象的な「Same Drugs」という楽曲*2について。この曲の歌詞には塗り絵というモチーフに密接に関わるラインが出て来る。

 

Dont you color out

Dont you bleed on out, oh

Stay in the line, stay in the line

 

 はみ出していかないで。

 外れていかないで。

 ラインの内側に留まっていて。

 

 という風に意訳できるのかな。この曲が劇中でかかるわけでもないんだけど、このラインをスパイダーバースの内容に重ね合わせてみたい。 

 線画というものを「既存のスパイダーマン像」に対応させる見方を前述したけど、それとは別に「はみだす/逸脱していく」ということを、家族を顧みない・周囲の犠牲を厭わないヒーローになってしまうことだと考えると、最後の方でスパイダースーツを着たまま父親と抱擁するのが一層感動的だ。「ラインの内側に留まる」ことはマイルスにとっては恐らく「ヒーローとして活躍しながら、大事な家族と居続けること」だから。

 

 

 僕は吹替版しか観ていないのだけど、エンドロールのTK from 凛として時雨P. S. RED I」はすごく良かったと思う。今回の映画は多次元宇宙からいろんなスパイダーマンが集結する作品なので、サントラのテイストに対して良い意味で「異質」な楽曲がブチ込まれるのが気持ちいい。

  この曲は、ギターと打ち込みとストリングスとピアノがスリリングに絡み合って展開していくところが作品の魅力 (登場するスパイダーマンの多様さ、画面の情報量の多さ)と繋がっている。Aメロ → Bメロサビのような繰り返しが無く、どこまでも走り続けていってしまうような構成になっているのが「一度変身して悪と戦うことを選んだら、二度と元には戻れない」運命とリンクしている。

 

*1:

正確に言うと現実の私たちの世界でリリースされている音源のジャケットとは細部が異なっている。現実のジャケットではキャップの数字が「3」だけど映画の中では「4」になっている。このページのNo.12に記されている

amecomi-info.com

 

 

*2:

20188月のサマーソニックでチャンス・ザ・ラッパーが来日した時の幕張公演。「Same Drugs」冒頭で日本の観客からシンガロングが沸き起こるのを観て、ステージに立つチャンス君は手を叩いて喜び、涙を拭っていたという。感動的瞬間だ。僕はその様子をTwitter越しで知った。

https://twitter.com/mami_neon/status/1031129688519786496