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好きな映画、音楽について

【ダンケルク】民間船の名前とストーリーのリンクを考察した

 


クリストファー・ノーラン監督作の「ダンケルク」。

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(※ネタバレ注意)


1回目はIMAXで観て圧倒されて、2回目をIMAXじゃなくてもいいからとにかく観たい!! ということで塚口サンサン劇場で観た。劇場で迫力ある映像・音響体験ができることも魅力だけど、帰ってから思い出したり脳内上映したりする中ですごくじんわりする映画だと思う。ギブソンの誠実な優しさとか、夕暮れの浜辺を滑空するスピットファイアの勇姿とか。

 

劇中、ダンケルクの浜にやってくる非武装のボートの名前を見ていて、深読みしたらストーリーとこんな風にリンクするんじゃない!? と勝手に盛り上がったので記事にしちゃう。

  1. NEW BRITANNIC
  2. ENDEAVOUR
  3. MOONSTONE

の、3挺について。

 

ちなみに本作の撮影風景写真が膨大にアップされているサイトがある。どの写真もタグ付けされていて、「BOAT」というタグの画像だけで662枚もある!!

Dunkirk - photos and videos of behind the scene

 

ファンの方が、沖合での映画撮影の模様を2016年に望遠レンズで撮りためていた模様。

 

それではひとつづつ紐解いていく;

 

 

1. NEW BRITANNIC

dunkirk-the-movie.com

 

防波堤にいる司令官 (ケネス・ブラナー)が双眼鏡で沖合を眺めている。陸軍将校が「何が見える?」と尋ねる。司令官は答える。「故国(Home)だ」と。

 

その次のシーンで、本当にたくさんの民間船がダンケルクの浜に兵士を迎えに来た様子が映るのだけど、名前が分かるようにアップで映る船のひとつが ”New Britannic”、「新しい英国」という名前の船だ*1

 

この「新しい英国」というモチーフは、映画の最後にトミーが読み上げる新聞記事で、チャーチルの戦意高揚演説に出てくるビジョンとリンクしていると思う。

 

演説の最後は「この島が制服され、飢えに苦しむことになっても、我々は戦い続ける。いつの日か、新世界の新しい力が古い世界を救い、解放するまで」というフレーズで締めくくられる (細部は省略)。この言葉で示されている未来が「新しい英国」に呼応していると捉えた。そういう名前の船が兵士達を助けにやってくる展開になっている。

 

兵士が一時的に戦場から救い出されても、ずっとずっと戦争を続けようとする英国。ダンケルクの浜から生還しても、ドイツとの戦いがまだまだ待ち受けている過酷な運命を想起させる。


「古い世界を救い、解放するまで」という言葉は、戦争の終わった平和な世界の訪れを意図しているような気が一瞬はしていた。でも実際には第二次中東戦争 (1956〜)、フォークランド紛争 (1982〜)、北アイルランド問題など火種は絶えていなかった。この映画で描かれている勇気や信頼、誠実さが美しく見えたとして、それは戦争という凄惨で終わりの見えない過酷な事象の中の本当に短く儚い一瞬に過ぎない。

 

 

2. ENDEAVOUR

dunkirk-the-movie.com


Endeavourという単語自体が「困難な状況に立ち向かう・努力する」という意味。

本作の予告編でリフレインしていた ”We Shall never surrender” は元々、「大英帝国は決して降伏しない」という国家レベルの大義だった。それが本作では「生きて還ることを絶対に諦めない」という一人一人の強い意志を言い当てたフレーズに読み替えられている。そんな生き残りをかけたEndeavourの過程がこの作品そのものだ。

 

それから僕はノーラン監督の前作「インターステラー」がとっても好きなので、宇宙に関連するワードが出てくると思わず反応する態勢ができていた笑。「エンデバーって、スペースシャトルの名前じゃん」と思わずにいられなかった。

 

よく調べて見ると (映画の舞台からすればずっと未来の話なのだけど)、アポロ15号計画で月に行った司令船がエンデバーという名前だった。このアポロ15号計画のミッションでは、月面着陸によって月の石を地球に持って帰ることに成功する。

この点が、後述する「MOONSTONE」という船の名前にリンクするというミラクルが起きている。すごい偶然!!

 

 

3. MOONSTONE

dunkirk-the-movie.com

 

ミスター・ドーソン、ピーター、ジョージを乗せてイギリスから出発する遊覧船。


アメリカのアポロ計画を引き合いに出すのは流石に拡大解釈が過ぎるにしても、「月の石」という名前の船でドラマが展開されれるのはとてもいいと思う。

 

まるで「民間の遊覧船がドーバー海峡を渡って戦争真っ只中のダンケルクに行って、兵士を乗せて、Uボート爆撃機の攻撃をかいくぐって生きて帰ろうなんて、奇跡か魔法でも怒らない限り無茶だ。そんなの、月に行って石を拾って帰ってくるようなものだよ」とでも言いたげな意図を感じる。本作で描かれたダイナモ作戦は稀有にして勇敢で、イギリス人としては全人類に誇りたいようなエピソードなんだと思う。

 

だから、この映画の制作陣から、1940年に実際にその場で作戦に関わっていた人たちへの惜しみない敬意を込めたエールとして「Moonstone」という名前の船に海・空・防波堤のそれぞれの登場人物が集まっていく映画になっているんだと解釈している。

 

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そんな風に、ディテールを読み解くことでストーリーや背景などいろいろな点が立ち上がってくる作品ってとってもいいなぁと思う。2017年に観た映画のなかでも、特に印象深くて思い入れの強い一本になった。