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【ペンギン・ハイウェイ】ハマモトさんと子供の強さ・アオヤマくんと大人の特権について考える

 ちょっと前からTwitterで「#後世に残したい漫画の名言」ハッシュタグが盛り上がっていた。

 僕は、ヤングガンガンで連載していたBAMBOO BLADEという漫画がとても好きだ。剣道部に所属する女子高生達と、どこか大人の階段を登りきれていないような顧問の先生 (コジローという)が繰り広げるコメディタッチの部活動コミックだ。

 

 その中に、今でもよく覚えている大好きなセリフがある (ペンギン・ハイウェイについて考える中で関係してくる大事なテーマが詰まっているセリフ)。

 

子供達が通う剣道場に恩師を訪ねていったコジローは、
子供の強さって、いつでも本気が出せるところだと思うんです。

私見を述べる。

 

 子供たちはエネルギーが持続する限り、効率化とか、損得とか、忖度とか、楽をしようとか、キャラじゃないとか、そんなこと一切考えずに本気になることができる。本気になることにかけては天才的な生き物だ。そんな思いを込めて、大人になった自分が、忙しさやめんどくささに かまける ようになったことを省みる。

 

 また、練習試合で対面した他校の生徒に接するシーンでは
若いうちから手を抜くことなんて覚えるんじゃない。まだガキなんだから後先考えず全力でやってりゃいいんだよ。今楽ばっかしてると、大人になってから本気の出し方忘れちまうぞ
と指導する。年をとっても、理屈や言い訳で逃げずにちゃんと本気が出せるようにしていたいと常々思わせてくれるセリフだ。

 

【以下、作品シナリオの核心に触れています】

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 映画「ペンギン・ハイウェイ」に出てくる小学生たちは、夢中になれる何かに対してナチュラルに本気を出している。
観ていて、それがとっても気持ち良かった。

 

 ウチダくんは、アオヤマくんがいないときでも、1人でプロジェクト・アマゾンの謎を探求する。

 スズキくんは、ハマモトさんの耳に自分の悪評が入ることは厭わず、全力で意地悪をしかけてくる。
 ズズキくんと腰巾着 (脇の2人)は、いざアオヤマくん達を助けようということになったら、叱られることも省みずに先生や大人に体当たりする。
 アオヤマくんは、ハマモトさんを「異性」ではなく「同志」のように見ていることで、ウチダくんも交えて、一緒に “海” の謎に向き合っていく。

 そしてハマモトさん。ハマモトさんの本気は特に素敵だ。それが「怒る」という感情の発露で現れるところに素直さが出ていてめちゃくちゃ好きになった。

 

 彼女が怒るシーンは劇中では大きく2箇所あったと思う。1つ目は「意固地になる」とても言った方が正しいんだろうか。アオヤマくんがお姉さんを ”海” の謎の解明に参加させたいと申し出るタイミングだ。

 前述のようにアオヤマくんが「異性」を意識していない一方、同い年のハマモトさんはお姉さんに嫉妬し、強がるような感情が芽生えている。女子の方が男子より先に背が高くなっていくような時期特有の、ハマモトさんの方が心が先に大人びてきている状況。それでいて子供らしいまっすぐさを本気で炸裂させ、アオヤマくんをがっかりさせることも顧みずに意地を張る。かわいいなぁ。

 

 もう1つ目は、研究者達に学校から連れ出されたウチダくん達がテントにいるのを発見し、"海" の話を大人にしていることに気づいて激昂するところ。

  自分が大事にしてきた研究や秘密の保持を邪魔するような人間は、たとえ父親が見ている前でも、たとえ他の大人が見ている前でも、たとえ仕返しされることになろうとも放っておけない。

 そんなひたむきさ・真剣さ・自分が抱えているものに本気になれることがとてもいいなぁと思った。子供の頃なら躊躇なく発揮できる大事な輝きを、ハマモトさんが体を張って見せてくれているような気がした。

 

 大人になるとそういうことが自然にできなくなる。大人は繰り返される日常を生きている一方で、子供はいつでも成長の過程の一瞬を生きている。だから、周囲に配慮するとか、黒歴史にならないように地雷を回避するとか、そういうことは気にしないで後先考えずに生きていて良いはずだ。

 

 大人のあり方として、こんな言葉*1がある。

「過ちを気に病むことはない。ただ認めて、次の糧にすればいい。それが、大人の特権だ。」
                         ー フル・フロンタル

 

 これを聞いたとき、別に子供だって過ちを気に病むことはないんじゃないか。どこらへんに大人特有の特権があるのか? と気になった。

 

 たぶん大人は「次の糧」として経験を活かす場があり、既知の課題にいつかまた出会うことが多くなる。同じ問題と向き合う中で、意図的にせよ無意識的にせよ、再現可能な解決策やパターンを駆使して生活を営んでいく。そして前述のBAMBOO BLADEのセリフに「本気の出し方」という言葉があるように、子供の頃に当たり前にできていたことに対してすら、ノウハウ・方法論を求めるようになる。

 

 一方子供達は、遠く先のことを慮ったり、後ろを振り返ったりしなくていい。今、目の前にあるもの: 箒星のように過ぎ去っていく一瞬に夢中になれる生き物だ。

 

 だから、
過ちを気に病むことはない。次の糧になるか/なったかどうかは、大人になってから気づけばいい。目の前にある、たくさんの「はじめて」に真剣に向き合えばいい。

それが、子供の特権だ。と思う。


 そんな生き方をピュアに邁進しているアオヤマくんの探究心は、改めてすばらしく美しいなぁと思った。「この謎を解いてごらん」とお姉さんにほだされ、お姉さんの謎に対して自分なりの答えを導き、「謎」だったお姉さんを、より大きく影響力のある課題: すなわち “海” の謎を解くための鍵に転化し、いつかまた会うことを新たな課題に設定した。

 

 謎が解かれて解決策になる → 新たな謎が生まれるというサイクルによって、アオヤマくんの前には夢中になれる対象がいつもちゃんとある。そのサイクルで走り続けていく限り、子供の特権を行使して得ていったものがそのまま「次の糧」になれるように積み重なっていく。

 

 アオヤマくんはセリフの中で「大人気ない」ことへの自負を露わにするけど、彼は大人でもないのに、自分の学んだことを「認めて、次の糧にする」スタイルが確立されている。頭はもう立派に大人なのに、心はまだ (同い年のハマモトさんよりも)子供なところが、ほんとうに大人気なくって、かわいいなぁと思った。

*1:機動戦士ガンダムUC episode2 赤い彗星」劇中のセリフ。