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好きな映画、音楽について

ベストアルバム2016 (前編)

2016年に良く聴いた音楽について。
アルバム・シングル・旧作含めてハマった作品を並べるとこんな9枚になった。

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(うち1枚は2006年にリリースされた旧作。)

 

まずは4作品についてこの記事で紹介~

 

 

1. 宇多田ヒカル「fantome」

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 もともと宇多田ヒカルの好きなところは、歌とアレンジとトラックのクオリティに「この人のチームに勝てる国内アーティストは誰一人として見つかりません」と降参せざるを得ないような、圧倒的な説得力があることだった。

 そんな説得力を活動休止の間に微塵も損わないどころか、これまでの曲に宿っていた都会的な圧迫感・せせこましさ、人工的な冷たさではなく、生の実感を躍動感で表現するような解放的な音色で新しい魅力を打ち出してくれた。

 過去の曲では緻密な仕掛けによって高揚感と空虚感を同時に表現するアレンジもあった(※)が、今回はストレートに素直に盛り上がっていくような展開が多く、それが生音中心の曲調と非常に良くマッチしていると思う。

 「ニ時間だけのバカンス」を聴いていると、このままどこまでも圧倒し続けて欲しいと思ってしまう。
 
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※過去曲、たとえば「traveling」でいうと具体的にはこんな箇所。
 イントロから「ヒュイイイイイイイ」という甲高い風のような音が背景で鳴っている。この効果音は「♪ふいに 我に 帰り くらり」あたりから音程が上がって行き、サビに向かってガーーーーッと盛り上がっていくように期待させる。けど、その期待感を敢えて裏切るように「春の夜の 夢の ごとし」のところで一旦勢いを萎ませて、 あれ!? と思わせたところで1, 2, 3, 4!! とカウントを取るようにハイハットが4拍鳴り、勢いをつけてサビに突入する。そんな風に歌詞とリンクした感情の抑揚をアレンジで見事に表現していた。メチャカッコよかった


2. The 1975「I like it when you sleep for you are so beautiful yet so unaware of it」

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「君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。」というアルバムタイトルは、ピュアラブまっしぐらで超ロマンチックだなぁとばかり思っていた。でも「Unaware = 気づいていない」という言葉が焦点の定まっていない感覚を言い当てていて、こちらの思惑に相手が全く気がついていない状況のような、やんわりとしたすれ違いを表現したものだと今では解釈している。

 80’s ポップスとアンビエントが出会って生まれた夢見心地なサウンドはそんな焦点の合わない感覚に対してすごくしっくりくるし、すれ違いから現実逃避するために心の中に立ち現れる桃源郷をも美しく描き切れるようなパワーが感じられる。

今の世代で自分が一番好きなUKバンドが期待を大きく越える新作を出してきたということで、ここから先が明るく開かれたような気分で聴いていた。

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このアルバムについて「音がクールでカッコいい」というだけで滅茶苦茶気に入って2016年の間ずっとノリノリで聴いてた。でもあんまり歌詞について深追いしてなかったので、今回改めて歌詞カードを読み直して気づいたことをメモ。

 リードトラック ”The Sound” では「君がそばに来ると分かるんだ 君の心臓の音を知ってるから」というBUMPみたいな力強い歌詞が冒頭からリフレインする。これは強い信頼とか愛の曲かな!? と思わせておきながら、実際には壊れて戻らない関係性を歌っている。「君がもしそばに来たらきっと分かるよ (もう来ないはずだけど)」というような状況の歌だった。

 アルバムの随所で「君は自分を心配してくれるけど、もうこっちは心変わりした」「気が動転して、自分の頭がおかしくなったみたい」「君にはもう他の誰かがいるって気づいた」などなどと歌い、特定の相手との関係性にフォーカスすることのない、ハッキリしない感情を描いている。そういうボヤけた感情で生じた「こじれ」 が “The Sound” で明確化する構成になっているように思えた。

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3. n-buna「月を歩いている」

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ボカロでギターロックをやっている作品。
ギターやピアノの音色の暖かさと、初音ミクの声が持っているピュアでイノセントな雰囲気が、春をイメージした曲中の物語に見事にマッチしている。もうじき桜が咲きそうな季節の独特の切なさが好きな方なら、誰にでもオススメできる。

ボカロシーンについては柴那典さん「初音ミクはなぜ世界を変えたのか? (2014)」を読んで概要知ってた程度で、全然詳しくなかった。

1. 歌によって物語をプレゼンするキャラクターとしてミクがいる
2. 情報量(音数)が多い

という特徴は知っていた。
そのイメージとアルバム「月を歩いている」がどう対応にしていたかについて。

1. 歌で物語をプレゼンしている という点に対して
 このアルバムでは「シンデレラ」「オオカミ少年」「白雪姫」「赤い靴」「かぐや姫」などの童話をモチーフにして、喪失や別離のストーリーが描かれている。全ての曲が、何か知らのフィクションを届けるために鳴っている。

そうやって物語を届けるために歌があるスタイルについて、n-buna氏本人による自己批評的なテキストが歌詞カードに記されていた。「いくつもの物語を作った。いずれも、追憶の中の “君” の代替品として生み出されたキャラクターを誰かが探している話だった。単調な複製でしか無かった」と読み取れる内容だった。

物語を歌に込めて届けるプロセス自体の切なさを暴いていて、ゾクッとした。


2. 情報量が多いという先入観に対して
 この作品では音数は多くない。それがとても良い。楽器数やパート数を抑えて、ギター2本とベースとドラムとキーボードでライブ再現ができるレベルの構成になっている。

その結果生まれた音の隙間でミクの声の特徴的な震えが響くようになっていて、切なさ・やるせなさが増長されるようにアレンジが効いている。「楽器としての初音ミクの魅力」が詰まった作品になった。

 

4. Kygo「Cloud Nine」

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トロピカル・ハウスの旗手として注目されたトラックメイカー、Kygoの1stフルアルバム。BPMを抑え目にして豊かな音色やハーモニーを届けることにフォーカスしたダンスミュージックにが鳴っている。「癒し系EDM」かのようにして宣伝されていたけど、草原や風の香りが漂うような自然な雰囲気が心地良い。

笛のような音色のリフが主導する楽曲は、夏の終わりよりもむしろ秋~冬にかけての雰囲気にマッチするなと感じた。

 

後編へつづく。